あなたの英語は伝わっているか?

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 私の父は長い間アジアの国々と商売をしてきた。60年代初頭からなんのコネクションも知り合いもいない異国へ一人で渡りカタログを鞄に詰めて一軒一軒顧客開拓をした。商品は日本製中古車だった。父がどうやって英語を身に付けたのかは今でも謎だが、とにかく誰とでも英語で話すことが困難ではなかったと思う。やがてインドネシア語、マレー語、タイ語などでのコミュニケーションもできるようになり、そのような国々にも市場を開拓してきた。私が高校生のころ気づいたことは、父の英語はかなり適当だったということ。時制の一致、過去形、現在完了などの使い分けが学校の試験なら合格しないと思われるようなレベルだった。それでも父はまったく動じない。正確さより通じることが大切だと言っていた。海外で日本人が英語でコミュニケートできない理由は正確さを追い求めすぎて話が進まないことだとも言っていた。ある日父は東南アジアのどこかの国で日本人の大学生のグループと同じレストランに居た。そのグループを引率していた大学教授の英語がまったくウエイターに通じていなかったという。そのシーンを目撃した父は学歴など関係ない。通じることが重要だと思ったらしい。帰国後その話を私にしてくれた。当時はまだその意味がよくわからなかったが、私が大人になってから、なるほどと思うことがたくさんあった。

 1980年代のロサンゼルスは日系企業のアメリカ進出ラッシュだった。この時期に多くの日系大手企業はロサンゼルス・ダウンタウンの金融街に事務所を置いていた。同時に多くの日本人駐在員も家族ごと日本から移り住んでいた。駐在員たちのほとんどは英語で苦労していた。そもそも海外に興味の無い人、英語が不得意な人も少なくない。そんな彼らは自分の意志とは関係なく会社命令である日赴任する。当然英語の準備をする期間は短いもしくは無いまま渡米となる。現地で英語を覚えるつもりでいても日々の業務に追われて英語の勉強どころではない。そんな彼らは高学歴で中には英文科を卒業した人も多くいた。しかし、英語圏の英語は日本の学校英語とは異なる。聞いたことも無い単語や表現、学校でリスニングのカセットテープを聞いた時とは比べ物にもならない速さのリスニングについていけない。耳が慣れてきてなんとなく言われていることが分かっても言葉を返せない。ようやく英語の文章を頭のなかで作った時には相手の話はすでに終わっており、「その話しはもう終わってるよ」と言われてがっかりする。そんな思いをしていた人を多く知っていた。リスニングは受け身的なトレーニングなので自分でできるが、スピーキングは相手があってできる事だ。目の前に英語圏の外人(アメリカでは日本人が外人なのだが)が立っているとそれだけで緊張してしまい何をどう言っていいのやら頭の中が真っ白いになってしまう。それでもなんとかしなくてはならないので、とりあえず何か文章にしてみる。頭の中での作業は聞いた英語を和訳して理解。そして返答を日本語で作文してから英訳する。そしてやっとそれを口に出して話す。そのプロセスを繰り返す中で文法の事が頭をよぎる。単語の使い方が気になる。発音が通じるのかなと不安になる。そしてトンチンカンな返答をしてしまったり、急に話せなくなって沈黙したり、あるいは内容を理解することがめんどうになり、わからないまま、「ok」と言ってスルーする。

 これではいつまでたっても会話というより対話にならない。言われている内容がわからない時にもっともしてはいけないことは、スルーすることである。”Okay”と言ってしまうと、聞いた相手は話が通じたと思って次へ進む。しかし、実際は何も理解していないのだからどこかで話しは平行線のままだということに相手は気が付く。これでは通じないのである。正確さ発音などより、たとえ単語を並べるだけでも通じれば良い。沈黙やOKスルーは対話を生まない。しかし、当時は駐在員に英語のコミュニケーションを教えるサービスは無かった。なにしろ日本はバブル景気で舞い上がっており、ジャパン・マネーがアメリカの不動産を買い漁っていた時代だ。カネを持っている者が強いと勘違いしている日本人がロサンゼルスの街を闊歩していた。そういう世の中の流れのなかで日本から来た日本人の英語はますます上達しないままスルーされて行った。

 この頃私は父の言ったことをもっともよく感じることができた。「通じることだ」という一言。大学教授だって英会話がまともにできない人がけっこういるという事実は中学生の私には実感のないコメントだったが自分がアメリカに住んで仕事をするようになり、その社会に日本から来た人たちが英語で苦労しているのを見た時、なるほど通じるということがどれだけ大切なのかを生活の中で実感できた。自分の英語が相手に通じるためには何が必要なのかを考えてみればそれは逆に日本に来た外人が片言の日本語で話してきたときに その人がどのように話せば日本人に通じやすいかを考えればよい。日本語としての正確な文法なのか、発音なのか、適切な用語なのか。これらをよく観察してみるとあるパターンが見えてくる。


2 thoughts on “あなたの英語は伝わっているか?

  • March 29, 2019 at 5:22 am
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    とてもよく理解できます! 私の父も鉄工職人でアメリカ海軍船の修理に本国から部品が届かないと 海軍から作ってくれと言われた部品や物品を作り日本の経済成長期を実用英語で乗り切った1人です。
    工場に入って仕事中のことを見聞きしていたわけではないので明確にはわかりませが、その頃のかなりの仕事量と収入になっていたのは子供ながら覚えています。最初は通訳付きだったらしいのですが、ある頃から軍人さんだけで来る様になり 父がどれくらいの英語が話せていたのかわかりませんが、お酒好きの父は 一緒に居酒屋に行ったり、夕食に 海軍兵さん達を招き一緒に食事をしたと後に聞きました。私の日本脱出後のことです。正に「 習うより慣れ」ですね。
    私の子供達は幼稚園から補習校に通い日本の学校にも体験入学などしてるので殆ど日本語会話には困りませんが、父は母に知られたくない事を正しいとは言えない英語で孫達と意思疎通します。正しくなくても通じてます(笑笑)。

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    • May 14, 2019 at 3:14 pm
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      MIA Yokosukaさん、
      そうだったんですね。お父様は日本の高度経済成長期を支えてこられた一人なんですね。なんでもそうですが使えることが大切だと思っています。ペーパードライバーって意味があるの?って。
      英語が使えないのにTOEICのスコアさえ上げればなんとかなる日本の会社って不思議です。日本の社会をそのまま映し出している。逆にお父様のように形よりも成果につながり家族を支えることが出来る英語は素晴らしいと思います。

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